飲食店開業する場合「個人事業主」「法人」どちらがいいのか?
飲食店開業しようと検討している人が、「個人」で始めるのがいいのか「法人」で始めるのがいいのか迷っているという声はよく聞きます。結論から言いますと、9割がたは「個人事業」での開業が良いと思いますが、個々の状況によっては法人設立スタートも検討した方が良いでしょう。
今回は、「融資面」と「税務面」などからの観点でお伝えしていきますので、「個人」「法人」どちらで開業するか迷っている方はぜひ参考にしてください。
【飲食店開業】「個人」or「法人」融資面
「個人」でも審査上、不利になることはない
飲食店の開業を検討されている方の中には、「法人」の方が融資審査上、有利なのではと考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、審査面で言えば、「個人」と「法人」どちらが有利というのはありません。経歴や自己資金額、事業計画書の内容で基本的には判断されます。
但し、融資時の責任に違いがあります。飲食店開業者が資金調達をする際によく利用される日本政策金融公庫(※)の融資制度である「中小企業経営強力化資金」を利用して、無担保・無保証で融資を受けた場合、個人の場合ですと、万が一事業が傾いたときの融資責任は個人に帰属します。一方、法人の場合、法人の自己破産という形になるので、個人生活に直結するほどの影響はありません。
個人のリスクを考えると「法人」で飲食店開業をスタートするという方がいますが、後述でも解説しますが個人事業で飲食店を開業すると消費税の免除期間が長くなり金銭的メリットを享受できます。飲食店経営は資金繰りが大事です。要するに、金銭的メリットが高い個人事業で開業したほうが廃業しにくいという事です。
日本政策金融公庫とは、2008年10月1日に、国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫、国際協力銀行の4つの金融機関が統合して発足した100%政府出資の政策金融機関です。全国に支店網があり、固定金利での融資や、長期の返済が可能など、民間の金融機関より有利な融資制度が多く、設立間もない法人やこれから事業を始めようとする人であっても、融資を受けやすいのが特徴です。
一般的な中小企業に関係する事業は、国民生活事業になり、国民生活事業は事業資金の融資がメイン業務で、融資先数は88万先にのぼり、1先あたりの平均融資残高は698万円と小口融資が主体です。融資先の約9割が従業者9人以下であり、約半数が個人企業です。
「個人」の方が、すぐに融資申請ができる
融資申請をする際に、法人の場合は法人化しないと融資申請ができません。つまり、法人設立をしている間は、融資を受けられないことになります。しかし、個人の場合すぐに融資申請ができるので、融資の審査スピードで見れば個人の方が有利と言えるでしょう。
融資ありきのビジネスモデルを計画している法人の場合、融資の審査が通らなければ、そもそも会社を設立することができず、設立費用を無駄にしてしまうリスクもあります。
【飲食店開業】「個人」or「法人」税務面
税務面を考えても、まずは「個人」がお勧め
資本金1,000万円以上の基準期間がない法人の場合、原則的に2年間消費税が免除されます。一方、個人で開業した場合、一年超消費税が免除されます。つまり、消費税が課税される年度の少し前に個人から法人になれば、約3年間消費税が免除されることになるのです。消費税の課税事業者になる年度の少し前に個人事業から法人成りをし、個人と法人双方の消費税の免除の恩恵を受けるのがよいと考えられます。
さらに、法人化して個人の所得規模が大きくなった場合も、役員報酬を受け取ることで消費税以外の税金を抑えることができます。個人の所得税は所得が増えれば増えるほど高くなる「累進課税」になるため、一定の所得に達した場合は、法人化をした方がお得です。
これらの事実を踏まえると、開業当初から多額の利益が実現できる場合を除き、まず「個人」で始めた方が良いでしょう。
共同(2名以上)で開業する場合は、「法人」がお勧め
2名以上で出資して複数の代表を立てる場合、税金支払いの平等性の観点から、法人でスタートした方がいいでしょう。
共同経営しているにも関わらず個人事業で飲食店を始めてしまうと、誰か1名を代表にする必要があります。代表の所得は「事業所得」という形で税金を計算する必要がありますが、その他共同経営者たちの所得は「給与所得」で税金計算をすることになり、平等な「可処分所得」にすることができなくなります。そのため、共同で出資して複数の代表を立てる場合には、法人化して全員役員として平等に役員報酬を受け取る方法が最善と言えるでしょう。
親族に給与を払う場合は、注意が必要
飲食店で親族に給料を出す場合、「奥様」が飲食店のお手伝いをしてくれたり、経理面でサポートしてくれるから奥様に給料を支給したいというケースが一番多いですが、奥様が旦那様の飲食店で専業している場合は、法人でも個人でも問題はありません。個人事業の場合奥様が他で働いていなくて個人事業で専業の奥様に給料を支給する場合には、「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出期限までに税務署に提出すれば奥様に支給する給与を経費として計上できます。しかしながら、奥様が他でパートをしていたりする場合には、「個人事業」の形態では奥様に給料を支給する事はNGとなります。厳密に言えば、法人でも個人でも支給自体は自由にできますが、個人事業の場合はその給与が経費になりません。
奥様が他の場所でパートやアルバイトなどで働いているけど、どうしても、「経営」「経理」等のサポートしてくれているから給料を支給して経費計上したいのであれば、法人形態にして奥様を「役員」にして役員報酬と言う形にすれば問題ないです。ただし注意していただきたい事があります。奥様が他でお勤めしている会社の就業規則に、掛け持ちは就業規則違反と書かれている場合には、厳密に言えば貴族違反になりますので、掛け持ちをするのであれば勤め先に相談してから、会社を設立して奥様を役員にした方がよいです。
個人事業主から法人にするタイミングについて
飲食店だけとは限りませんが、ここでは個人事業主から法人にするタイミングについて解説していきます。
社会的信用や取引先からの依頼による
一般的に、個人よりも法人の方が信用力は高いと言えます。中には取引先を法人に限定している企業もあるほどです。法人化することで取引先も確保しやすく、活動の幅も広がるのは確かでしょう。また、金融機関から借入を行う場合にも、個人では審査が厳しく、多くの場合で保証人が求められます。法人化することで信用力が増し、金融機関からの融資や投資家からの出資など、資金調達面でも有利となります。また採用面においても、個人事業では信用力などの観点から人材が集まりにくいもの。法人化した方が優秀な人材を確保しやすくなるでしょう。
そして企業と取引をするにあたり相手側から法人格ではないと取引できないといわれたときが法人格のタイミングになります。
利益額
利益額で判断する理由は、事業から生じる利益が同じでも、個人事業と法人では利益に対する税負担が変わってくるからです。個人事業主が得た事業所得などから基礎控除や配偶者控除などの所得控除を引いた課税総所得金額に対しては、所得税と復興特別所得税、そして住民税が課税されます。その税率は所得税が所得金額に応じ5%~45%、復興特別所得税は所得税額の2.1%、住民税は10%とされています。所得税に関しては、所得金額が増えると税率が高くなる超過累進税率が適用されます。
一方、法人所得については法人税や事業税などが課税されます。法人税は、法改正があった関係で事業開始年度によって適用税が少し違いますが、中小法人は所得800万円まで15%、大法人と中小法人の所得800万円を超える所得については23%程度の比例税率となっています。そのほかの税負担も含めた法人所得に対する実効税率は30%弱といわれていますが、ほとんどの部分が比例税率ですので、どれだけ利益が増加しても税率は変わりません。そのため、税負担を考慮した場合、法人の所得に対する税率よりも、個人事業所得に対する税率が高くなる前のタイミングで法人成りするのがよいといえるでしょう。
一般的な所得金額の目安は、個人事業の利益が800万円を超えたあたりで法人成りするとよいといわれています。ただし、所得控除や事業以外の所得の有無などによって条件は大きく変わる可能性がありますので、法人成りの判断をする場合は税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
売上高
売上高は、消費税の納税義務者になるかどうかに影響を与えます。適切なタイミングで法人成りすることで、消費税を納め始める時期を2年先送りできる可能性があります。
個人事業主の2年前の消費税課税売上高が1,000万円を超える場合、または2年前の課税売上高が1,000万円以下であっても、前年の前半6カ月の課税売上高が1,000万円を超える場合は消費税の課税事業者となり、消費税を納める義務が生じます。仮に、2年前の課税売上高が1,000万円を超えて個人事業主として消費税の納税義務者に該当することになった場合、そのタイミングに合わせて法人成りすることによって、消費税の納税義務は免除されます。新設法人は個人事業主とは別人格ですので、個人事業主の過去の売上高は影響がありません。法人の設立年は、納税義務の判定に必要となる2年前の売上高がないことになります。また、翌年度についても2年前の売上高はなく、初年度の開始半年間の売上高が1,000万円以下であれば免税事業者となります。そのため、新規に法人を設立した場合は、設立後2年間は消費税の納税義務が免除される可能性が高く、個人事業を継続した場合と比較すると税負担が減るメリットを得られます。ただし、資本金1,000万円以上で設立された法人は設立事業年度から課税事業者となる特例規定がありますので、資本金の設定には注意が必要です。
社会保険加入
健康保険や厚生年金などの社会保険について個人事業の場合、特定の業種で5名以上雇用している場合を除いて加入義務はありません。一方、法人化すると雇用している人数に関わらず、強制加入になります。 社会保険は、個人事業主が加入する国民健康保険や国民年金よりも手厚い補償となっているため、法人化によって社会保険に加入することはメリットのひとつとして挙げられます。
しかし、従業員分の社会保険料も法人で負担する必要があるため、法人化によって人件費の負担が重くなるというデメリットも生じます。人件費が多くかかる業種の場合は、社会保険の金額的負担も大きくなり、資金面にも大きく影響するのでこの点には注意が必要です。
まとめ
今回は、「融資」「税務」の観点から「個人」「法人」どちらがいいのか説明してきましたが、まだ、どちらで開業するか迷っている方もいらっしゃるかもしれませんが、まずは「個人」で開業する事をオススメします。
勿論、状況によっては法人開業の方がいい場合も十分にありますので、迷われたならば、専門家(司法書士など)に相談しましょう。