飲食店経営者必読!食中毒からお店を守るための基礎知識
最近、日本では気温が上昇し、食中毒のリスクがさらに高まっているため、国や地方自治体からも飲食店に対し法改正や注意喚起が出されています。
今回は、飲食店における「食中毒」対策、基礎知識について解説していきます。
飲食店の食中毒が発生する原因とは?
食中毒の原因は細菌、ウイルス、化学物質、寄生虫、自然毒などさまざまです。まずは、飲食店を経営するうえで、知っておきたい食中毒の主な原因をご紹介します。
ノロウイルス
ノロウイルスは口から体内に入ることによって感染し、食中毒を引き起こします。特にノロウイルスは年間の中でも冬場に発生する確率が高くなっています。ウイルスに感染した人の手やつばなどで二次感染するケースもありますのでご注意ください。
サルモネラ属菌
牛や豚、鶏などの腸内にいる細菌です。牛・豚・鶏などの食肉、卵などが主な原因の食品となります。菌がついたものを食べると、半日~2日程度で食中毒が発生します。
腸管出血性大腸菌(O-157やO-111など)
牛や豚などの家畜の腸の中にいる病原大腸菌の一つです。食肉などに付着していることが多く、生肉や加熱不十分な肉を食べることによって発症します。幼い子どもや高齢者が発症すると重症化してしまうケースもあります。
黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌は自然界に広く分布しています。人の皮膚やのどにもいるものです。調理する人の手や指に傷があったり、傷口が化膿したりしている場合などは気をつけてください。食品を汚染する確率が高くなります。汚染された食品の中で毒素が作られることで食中毒を引き起こします。
カンピロバクター
牛や豚、鶏などの腸内にいる細菌です。ノロウイルスの次に発生件数の割合が多いのがカンピロバクターです。この細菌が付いた肉を、加熱不十分で口にすることで、食中毒を引き起こします。
ウェルシュ菌
河川や海、土壌のほか、人や動物の腸管などに広くいる細菌です。酸素のないところで増殖し、芽胞を作るのが特徴となっています。汚染された魚や肉を使用したカレーやシチューなどの煮込み料理を食べることで食中毒を起こします。
セレウス菌
河川や土壌など自然界に広く存在している細菌。米やパスタ、豆類、香辛料などが主な感染源となります。熱に強く、加熱による殺菌が難しいのが特徴です。
『食中毒予防の3原則』について
飲食店の食中毒予防で大切なのが、食中毒の原因となる菌を「つけない」「増やさない」「やっつける」ということになります。この3つは「食中毒予防の3原則」と言われ、食中毒対策においても欠かせない考え方となっています。
- ①菌をつけない(清潔)
- ②菌を増やさない(迅速)
- ③菌を殺す(冷却・過熱)
では、それぞれについて説明していきます。
① 菌をつけない(清潔)
店舗は常に清潔にし、整理整頓を心がけます。また、従業員の手洗いを徹底するだけでなく、アルコール殺菌を心がけます。食品に触っていなくても、1時間に1回は手洗いをするのが基本です。また、食肉や魚介類、野菜はそれぞれ容器に分けて保管し「相互汚染」を防ぎます。冷蔵庫内のストック場所も明確にし、洗っていない野菜と加工した食品をわけて保存することも大切です。場所がないときは袋に入れて際下段に入れます。
さらに、調理加工で使用するまな板などの調理器具も用途に合わせてわけ、二次汚染の防止に努めることも重要です。
② 菌を増やさない(迅速)
食中毒菌の中には、最初から食材中に含まれているものもあり、それらを増殖させないことが重要です。冷蔵冷凍庫の温度管理を徹底し、仕込みなどの作業は迅速に行います。
- 冷蔵庫: 庫内温度 5℃以下
- 冷凍庫: 庫内温度 -18℃以下
また、庫内の温度計は冷風が回ることで一定に保たれます。そのため、庫内に食材が詰め込まれすぎた状態では、場所により温度が下がりませんので、適量を心がけます。また、仕込んだ食材は、製造時間や賞味期限などを分かりやすく書くようにすることも重要です。
③ 菌を殺す(冷却・過熱)
食材は十分な冷却と加熱を行うことで死滅させます。加熱処理の場合、食品の中心部温度を75℃で1分以上加熱すれば、ほとんどの細菌は死滅します(ノロウイルスは85℃、1分以上)。
ただし、中心温度が規定の状態にならなければ意味がありません。表面が焦げるほど熱くても、中心温が上がっていなければ殺菌効果がないことを十分理解しておく必要があるでしょう。専用の温度計を使い、調理時間が十分か、火加減は適切かを定期的に計測するようにします。このとき、揚げ物や焼き物は食材の中央部を、煮物や炒め物は最も熱が通りにくい食材の中心温度を測定するのがポイントです。
万が一に備えて、保険に入ることも重要
飲食店にはさまざまな保険がありますが、食中毒を扱った保険に加入しておくことも重要です。そのひとつが「食品営業賠償共済」です。食品衛生協会会員のための共済保険で、保障限度額5千万円コースと1億円のコースがあります。訴訟となったときの費用を負担してくれるのも特徴ですので、万が一に備えるなら検討してみるとよいでしょう。
ほかにも、各保険会社が用意している「店舗総合保険」というものがあります(保険会社によって名前が違うものもあります)。火災や天災で機器が破損したときに修理代を補填してくれる「店舗への保障」の他、食中毒を出してしまったときの「お客への保障」を行うのが特徴です。また、営業停止になったときの営業補償がついているものもあります。具体的な保障内容は各社により違いがありますので、契約の際にはよく調べるようにしてください。
2020年6月から義務化される「HACCP」とは?
2018年6月に食品衛生法が改正され、2020年6月から飲食店を含むすべての食品事業者でHACCPの義務化が始まりました。完全施行までに1年間の猶予期間が設けられたため、2021年5月31日までに、HACCPを導入しなくてはなりません。HACCPの導入は食中毒事故の防止に直結するので、「法律で義務化されたから」ではなく、「食中毒事故を起こさない」ために取り組みましょう。
ちなみにHACCPとは、調理工程内に潜む危害(食中毒菌など)を見つけ出して対策を講じることで、未然に健康被害を防止する工程管理のシステムです。近年、世界中で衛生管理の機運が高まっており、HACCPを導入する国が増える中、日本でも義務化の運びとなりました。
飲食店におけるHACCP導入は、基本的に厚生労働省HP(HACCPに沿った衛生管理の制度化)を参考にしてください。
まとめ
いかがでしたでしょうか?細心の注意を払っているつもりでも、いつ発生するとも限らないのが食中毒です。予防のためには、正しい知識と具体的な行動を全スタッフに周知徹底することで、店舗を守っていくしかありません。
それでも、思わぬところからほころびが生じることもあります。食中毒菌は目に見えません。だからこそ整理整頓など目に見えることから徹底することが重要になってきます。