2022年4月から中小事業主にもパワハラ防止措置が義務化!パワハラの基準や防止対策について解説
今回は、2022年4月から中小事業主にもパワハラ防止措置が義務化になる「パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)」についてやパワハラの基準や防止対策について解説していきます。
そもそもパワハラ防止法とは?
改正労働施策総合推進法=パワハラ防止法
「パワハラ防止法」という新しい法律が作られたのではなく、既存の法律である「労働施策総合推進法」に改正が加えられ、その法改正の総称として「パワハラ防止法」という総称が使われています。
さらに、男女雇用機会均等法などの他の法律も合わせて改正することで、セクハラやマタハラなども含めたハラスメントへの対応強化が図られました。これら関連する複数の法律の改正を含めた総称が「パワハラ防止関連法」となります。
パワハラ防止法の目的
パワハラ防止法は、パワーハラスメントの防止を企業に義務付ける法律です。この法律は、パワハラの基準を法律で定めることにより、防止措置を企業に義務化することを目的としたものです。これまで明確な基準がなかったパワハラについて、法律に明記することで、職場でのハラスメント対策の強化を事業主に対して法的に義務付けています。
パワハラ防止法の開始時期
厚生労働省は、パワハラ防止法のスタート時期を、大企業は2020年6月1日からとし、中小企業は2022年3月31日までの努力義務期間を設けたうえで、2022年4月1日から施行としています。
なお、中小企業とされるのは中小企業庁の定める基準にのっとり、資本金3億円以下または社員数300人以下の企業となりますが、飲食店などのサービス業はそれぞれ別の基準が設けられているので確認が必要になります。
パワハラを判断するための基準について
職場におけるパワーハラスメントとは、以下の3要素を満たすものとされています。尚、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については該当しないため、すべての業務指示・指導を控える必要はありません。
- 優越的な関係を背景とした言動である
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものである
- 労働者の就業環境が害されるものである
上記の定義は、「同じ職場で働く者」全てが対象となります。そのため、正社員・契約社員・派遣社員・パート・アルバイトなど、全ての雇用形態の従業員が適用となります。
代表的なパワハラ行為について
パワハラ防止法では、代表的なパワハラ行為を下記の6類型に分類しています。例とともに説明していきます。
①身体的な攻撃:暴行や傷害など
例:殴打や足蹴りをする、髪をひっぱる、ものを投げつける
②精神的な攻撃:脅迫や名誉毀損、侮辱、ひどい暴言など
例: 相手の人格を否定するような言動、侮辱的な言動、業務の遂行に関する内容を長時間にわたり必要以上に激しく叱責する(何度もくり返す)、他人のいる場所での威圧的な叱責をくり返し行う、本人以外の人間が見ることができるメールなどでの罵倒
③人間関係からの切り離し:隔離や仲間はずし、無視など
例:意に沿わない労働者を仕事から外し、長時間別室へ隔離する、自宅待機や自宅研修を強制する、集団で無視し職場内で孤立させる、職場の親睦会などに特定の労働者を呼ばない
④過大な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
例:本来の業務に直接関係がない作業を長時間にわたり肉体的苦痛をともなう過酷な環境下で行わせる、必要な研修などを行わないまま対応できないレベルの仕事をさせ完了できなかったことに対して厳しく叱責する、業務と関係のない私的な雑用などを強制的に行わせる
⑤過小な要求:道理に反して、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
例:労働者を退職させる目的で誰でもできるような簡単な業務を行わせる、気に入らない労働者に嫌がらせ目的で仕事を与えない
⑥個の侵害:私的なことに過度に立ち入ること
例:職場以外での継続的な監視や私物の写真撮影、個人情報を本人の同意を得ずにほかの労働者に暴露する、有給休暇の取得理由に口をはさみ理由次第で却下する
上記6類型はあくまでも例であり、これらだけがパワハラとされるわけではありません。このほかの行為であっても、パワハラと判断される場合があることを注意しておきましょう。
企業に必要なパワハラ防止対策
職場内の個別のトラブルについては、中立的な第三者が相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、相談者と行為者の双方から丁寧に事実確認することが重要です。そのうえで企業はハラスメント対策として大きく3つの対策措置が必要と言われています。
事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
事業主は、職場におけるパワーハラスメントに関する方針の明確化、労働者に対するその方針の周知・啓発として、以下の措置を講じなければならない。
- 職場におけるパワハラの内容、及びパワハラを行ってはならない旨の方針を労働者へ周知する
- 職場におけるパワハラを行ったものに対して厳正に対処する方針及び対処の内容を就業規則等に規定し、労働者に周知・啓発する
相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
事業主は、労働者からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備として、以下のような措置を講じなければならない。
- 相談窓口をあらかじめ定め労働者に周知する
- パワハラ発生のおそれがある場合、またはパワハラに該当するか微妙な場合であっても、広く相談に対応し適切に対応する
職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
事業主は、職場におけるパワーハラスメントに係る相談の申出があった場合において、その事案に係る事実関係の迅速かつ正確な確認及び適正な対処として、以下の措置を講じなければならない。
- 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認する
- 職場におけるパワハラ発生の事実が確認できた場合、速やかに被害を受けた労働者に対する配慮のための措置を行う
- 職場におけるパワハラ発生の事実が確認できた場合、行為者に対する措置を適正に行う
- 改めて職場におけるパワハラに関する方針を周知・啓発する等防止に向けた対策を講じる
上記のほかにも、パワハラ防止法では労働者個人間のコミュニケーション能力がパワハラを防止する上で重要とされており、コミュニケーション活性化や円滑化のための研修等、必要な取組を行うことが推奨されています。日常的なコミュニケーションや、感情をコントロールする手法についての研修を行うことで、パワハラの原因や背景となる要因を解消する狙いがあります。
また、パワハラは上司から部下に成されるばかりではなく、同僚もしくは部下からの嫌がらせに当たる言動も含まれます。職位の上下に関わらず全ての労働者は何がハラスメントにあたるのか、業務指示とハラスメントの境界とは何か等を学ぶ必要があるでしょう。
まとめ
パワハラは、どのような職場でも起こりうる問題です。企業がパワハラを許さないという方針を打ち出し、パワハラの対応を整備しておくことで、従業員は安心して働くことができます。しかし、パワハラ対応の整備には時間がかかり、すぐに完了するものではありません。従業員が安心して働くことができる環境を作るために、パワハラ防止対策について取り組みを進めていきましょう。